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コラム

快適な住まいは「健康寿命」を延ばす~健康に暮らすための住まいの知識~

 

 

 

快適な住まいを建てられてから、前の家より心も身体も健康になったというM様

 

●平均寿命よりも健康寿命

日本人の平均寿命は、男性80歳、女性87歳。わが国は、世界でも言わずと知れた長寿大国です。一方、健康寿命という言葉があるのをご存知でしょうか? 健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義され、2000年にWHO(世界保健機関)が提唱した指標です。健康寿命には、大きな病気を患ったり、認知症になったり、介護を受けていたりする期間は含まれていません。つまり平均寿命と健康寿命の差が、「健康でない期間」と考えることができます。

それでは、日本人の健康寿命はいくつでしょうか? 厚生労働省の調査では、2016年の日本人の健康寿命は男性が72.14歳、女性が74.79歳と発表されています。男女ともに平均寿命とだいぶ差があることが分かります。長寿の国といっても、日本では男性が約8年、女性は約13年も「健康でない期間」があることになるのです。

日本では、国民皆保険制度などの手厚い医療保障があるため、病気に対する予防意識が低いのかもしれません。高齢者になれば、病気の1つや2つ持っているのが当たり前、病院通いも日課のうち。そんなふうに思っていませんか。しかし、平均寿命が延びて健康寿命との差が拡大すれば、身体的な負担もさることながら、医療費や介護費はかかる一方、家計への影響も出てきます。なにしろ日本の医療費は2025年には25兆円ともいわれ、その負担は国民全体に重く伸し掛かってきますから、健康な人でも無関心ではいられません。そこで近年は、平均寿命を延ばすことよりも、健康寿命を延ばすことに関心が高まっています。

 

●禁煙よりも運動よりも断熱!?

では、いかにして健康に生活できる期間を延ばすか? 食生活に気を遣ったり、日常的に運動したり、健康に対して一定の努力をしている人は少なくありません。なかにはサプリメントを飲んだり、スポーツジムに通ったり、高額な費用をつぎ込んでいる人もいるでしょう。一方で、毎日多くの時間を過ごしている「家」には、関心を示す人がほとんどいません……。しかし、近畿大学・岩前篤教授の調査によると、手足の冷えや喘息、アトピー性皮膚炎など多くの症状が、住宅の高断熱化によって改善しているのです(グラフ❶)。それは、運動や禁煙などの生活習慣と比べても、高い改善率を示していることから、住宅の高断熱化こそ、実は健康への近道といえるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●冬に多発するヒートショック

また、年間約1万9千人(2014年※)もの人が入浴中にヒートショックで亡くなっています。これは交通事故による死亡者数の4倍以上。そのうち高齢者は約1万4千人、実に8割を占めています。ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が乱高下したり、脈拍が変動したりして、体が衝撃を受けること。冬の入浴中に多発し、ひどいときには心筋梗塞や脳梗塞を起こすこともあります。日本の家は、浴室や脱衣室が寒いため、早く温まろうと熱いお湯に浸かるので、ヒートショックが起こりやすいのです。このようなヒートショックを防ぐには、浴室や脱衣室に暖房機器を置いて暖める方法もありますが、理想は各部屋との温度差をなくし、局所的な暖房がなくても寒くない状態を保つことです。これもまた、高断熱化によって実現できます。このように家のつくりと健康は無関係ではありません。むしろ健康な状態を保つためには、快適な環境で暮らすことが必要です。私たちが2章で再三にわたり、高断熱・高気密の取り組みを紹介してきた理由が、これでお分かりいただけたのではないでしょうか。

    ※厚生労働省科学研究費補助金 入浴中関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究(2014年)