地域のこと知っておこう

「広島に家を建てる」といっても、どの地域に建てるかによって、
家のつくりは少しずつ変わってきます。ここでは、広島を6つの地域に分けて、
家を建てるために知っておきたい地域ごとの特徴をまとめました。

【気候で分ける広島6エリア】

島国である日本は海に囲まれ、国土の80パーセント以上が森林という特徴的な国です。また、日本列島は南北に長く伸びており、さまざまな自然環境を有しています。そんな豊かな自然環境の中で快適に暮らすために、現在、日本の住まいにおける省エネ制度では、日本を8つのエリアに分け、住宅の性能の基準を定めています。広島県はその中で、3つのエリアに分類されています。ですが、広島県のように東西に長く、南北にも広い、そして島々や山間部もあるエリアを3つの地域に分けるのは、いささか乱暴に感じます。そこで、この本では広島をさらに、6つのエリアに分けました。

まず、アイランドビューが美しいしまなみエリア、そして瀬戸内海を包む沿岸エリア、ビルが立ち並ぶ都市部エリア、山の裾野に住宅地が広がる郊外エリア、山々の間に町が点在する山間部エリア、そして、冬は雪深い県北エリア。

特色のあるエリアがあるということは、そのエリアごとに家づくりのポイントは変わります。住まいは一生に一度の大きな投資です。建設予定地、ご自身が住むエリアがどんな特性を持つエリアかを理解しましょう。

エリア図

【広島の夏と冬、その気候や風土の違いを断面で比較してみよう】

広島は山陽エリアの名前の通り、太陽に恵まれた地域です。南に瀬戸内海が広がり、北には中国山脈に向かい、標高が上がっていきます。広島に大きな台風があまり来ないのは四国山脈と中国山脈に挟まれ守られたエリアだからとも言えます。こうした地形だからこそ、見えてくる特色があります

海風と夕凪に涼しさを招く換気設計と災害対策もポイント

まずは夏から説明します。日本の夏は基本的に日中は海から南風が吹きます。
しまなみエリアはまわりが海のため、海からの風が通り抜けます。そのため、気温の割には比較的過ごしやすいと言えます。
しまなみエリアを通り抜けた風はもちろん、沿岸部に到達します。しかし、中国山脈に向けて、標高が高くなるのに加え、三角州のため平地が北に向かうほど、狭くなっていきます。そのため風が抜けにくく、凪が起きます。また、夏は熱せられた湿度が高い海の風が運ばれるため、窓を開けてもなかなか涼しさを得ることはできません。
 都市部ではこれに加え、コンクリートやアスファルトが熱で暖められ、ヒートアイランド現象により、夏は夜でも気温が下がらず熱帯夜になります。空気汚染の観点からも

自然のぬくもりを取り入れる気密・断熱性が居心地の差に

冬は夏と逆に北風が吹きます。
県北エリアには日本海からの湿気を含んだ空気が運ばれ、山の上部に行くことにより冷やされ、雪となります。雪は盆地にもしっかり降るため、県北部では毎年大雪に見舞われます。窓ガラスには夏用の日射遮蔽型と、冬用の日射取得型があり、温暖地では西、東、あるいは状況によっては北にも日射遮蔽型を採用しますが、県北部では全方位日射取得型がおすすめです。また、風が上空を通り抜ける県北エリアでは、湿気がたまり霧が発生するため、天気が悪いと勘違いするほどです。天気がすぐれないからこそ家の中で快適に過ごせるよう、計画的な換気や暖房が必要です。

山間部には県北エリアで盆地の上を通り抜けた北風がまともに吹き付けます。風が吹けば体感温度が下がるのと同様に、建物も風の影響を受けます。風の強いときはウインドブレーカーを着て、寒さをしのぐのと同様、建物も気密性能を上げることが大切です。

 郊外エリアでは風も比較的弱まりますが、広島の三角州の頂点になる可部などのエリアは集中して風が通り抜け、寒さは強まります。また、山沿いでは山間部ほどではないですが、雪も積もるため高断熱の家だと安心です。
沿岸部エリアは平地とはいえ、山影により、午前中や午後の日当たりが悪くなるエリアもあるので、その考慮は必要です。
都市部は暖かいと思われがちですが、実際はそうでもありません。高層建築が立ち並ぶため、マンション以外は日射取得を期待できませんし、敷地条件により、南ではなく、東や西、もしくは北にしか開くことができないケースもあります。日当たりが悪いということで、条件は郊外よりも悪くなるため、少ないエネルギーで快適さを確保するための性能が求められます。

しまなみエリアはまわりの海が風と海の熱を拾い、比較的暖かな冬を過ごすことができます。
このように見ると夏は山間部、冬はしまなみエリアで暮らせば最適ですが、そうはうまくいきません。これらはあくまでも環境条件であり、人が住む場所を選択するときの要件は、家族、仕事、教育、文化、人間関係など、さまざまあります。ただ、先人たちは自然環境を踏まえた家づくりの文化を形成してきました。しかし、戦後の大量生産の波にのまれ、画一的な住宅がつくられ、住んでから、住まいと環境が合っていないことに気付くという悪循環が繰り返されてきました。そろそろ、そうした負のスパイラルを断ち切ることを考えましょう。

県北エリア

盆地の暑さと寒さ美しい自然を深呼吸する暮らし

県北エリアは中国地方のほぼ中央から北に位置しており、山々に囲まれた豪雪地帯というイメージが強い。盆地も多く夏は高温多湿、冬は終日低温とされるが、寒暖の差を感じる地域も多い。山の高台にある地区では、夏は就寝時に窓を開け、扇風機だけで過ごす家もある。お盆を境に暑さも和らぎ、朝方には窓を閉めるほどの温度差もあり、季節の移り変わりを実感させてくれる。冬の寒さが厳しいと言われる県北だが、南に位置する地域は、日照時間は少し長く、積雪量も少ないため、過ごしやすい。一方で県北の北エリアは、冬の最低気温が厳しく、凍害・雪害に悩まされることもある。同じ県北でも場所によって気候の差はあるが、冬の保温力を重視した断熱性能が、住まいには必要だ。近くには美しい森林が多く、車を少し走らせるだけで、森林浴のようなドライブも味わえる。春夏秋冬を生活の中で肌に感じられ、水に恵まれた農作物の味は評判。子育てに最適な自然も魅力と言えるだろう。

住まいづくりのワンポイント
県北エリア気候グラフ
山間部エリア

海から離れて日没後に気温低下乾燥しやすい気候

山間部エリアは、海側に近い沿岸エリアに比べると最低気温が低く、昼夜の気温差が大きい。なぜなら、海は大きな熱容量を持っており温度変化を緩和してくれるが、山間部は海から距離が離れており大きな熱容量を持つものがないためである。次に山間部の住居エリアに限定すれば、周囲を山で囲まれた盆地形状が多く、気候としても盆地の特性が当てはまることが多い点にある。盆地といえば、「夏暑く、冬寒い」気候とイメージする人も多いのではないだろうか。盆地は山に囲まれ、吹き込む風が弱く、高温になった空気が淀んだままとなり、夜間でも寝苦しい高温になることがある。また年間の降水量は少ない、日照時間は多いなどの特徴を一般的に言われるが、盆地の大小、海からの距離などの環境によって変化することも覚えておきたい。自然の厳しさを感じる一方、環境や時間の流れにゆとりがあり、豊かな暮らしの基盤がそろっているエリアである

住まいづくりのワンポイント
山間部エリア気候グラフ
郊外エリア

日差しの長短で気温が変化冬の積雪も風物詩

広島の郊外は自然が近く、季節や周辺環境の恩恵を取り入れやすい。山の斜面の団地形状の宅地が代表的なエリアと言える。春は日中にやわらかい風が吹き、気温がちょうどいい。暖房が不要になり、風を取り込む家も多いが、花粉などの季節と重なるため、窓を開けられない家もある。窓の開け閉めや方向などは大切だ。夏は日差しが高く平均気温も上昇傾向にある。林や森に近い家は、涼しい場所もある。団地でも無風の「凪」状況があり、急な豪雨など局所的に気候が変わることも少なくない。冬は一日中雪が降る日もある。日差しがなければ気温がマイナスになることがあり、積雪で道路が渋滞したり、高速道路が通行止めになったりする。また、冬でも日中に日が差せば暖かくなることがあるため1日の気温の変化が激しい。体調を崩さないように衣服を着たり脱いだりする工夫が必要だ。都市部と山間部エリアをつなぐ郊外エリアは自然を身近に感じる立地でありながら、買い物や通勤がしやすい利便性も合わせもっている。

住まいづくりのワンポイント
郊外エリア気候グラフ
都市部エリア

人気の平地は希少将来の環境変化や災害にも備えて

瀬戸内の都市部は、利便性や土地の資産価値の高さなどで人気が高い。特に広島は三角州のため、新規での平地の土地販売は少なく、整形の敷地は坪単価の高い場合が多い。また防火・準防火地域の場合、構造や外壁、サッシなどは対応した仕様になるため、建設費が高くなる。現在隣地が低層の建物でも、高層の建物に建て替わる可能性を考慮した間取り計画なども重要だ。さらに前面道路に大型車両が入った場合、家に振動が伝わる可能性、排気ガスで洗濯物や窓が汚れやすく、室内で洗濯物を干せる場所の確保や騒音対策なども大切。敷地内に駐車場がなく、周辺に借りるときは駐車場代が高額になる可能性があり、その費用も住宅ローンの計画に反映しておこう。都市部は、海抜の低い地域も多く、防災マップなどで、水害時の浸水の深さや地震時の津波予測などを考えながら、床の高さなどに配慮した計画が望ましい。

住まいづくりのワンポイント
都市部エリア気候グラフ
沿岸エリア

温暖ながら風や湿度の影響で激しい寒暖気温に

古くから塩田、海苔養殖、漁業、造船、工場など、産業で栄えた沿岸部地域。そのエリアは長く西は大竹から東は福山まで130㎞以上ある。夏は凪という夕方にまったく風の吹かない状態があり、海に近い場所では、窓と玄関を開け、風通しを得ながら扇風機を使っても、凪のときは西日も加わり、暑さが続く。海抜の低い場所では湿度が夏冬とも高く、エアコンの冷房と除湿を使わなければ、室内で熱中症を発症する可能性がある。凪の時間を過ぎて海からの南風が吹くときは、爽やかな心地良さを感じる。海に近いマンションの高層階や高台では、エアコンを使わない家庭も多い。海からの風が届きにくい所では、高い湿度になるが、室内では高い湿度の方が暖かく感じる。年間を通して、瀬戸内の美しい風景を感じることができるのが、この地域の魅力である。

住まいづくりのワンポイント
沿岸エリア気候グラフ
しまなみエリア

穏やかな気候で暮らしやすい海の厳しさも知る

瀬戸内海の島々は、海に囲まれた温暖な空気に包まれている。中国山脈から吹く北北東の風、豊後水道からの南南西の風、四国山脈付近で太平洋の風を受け止め、風を分散ミックスすることにより、東の風や北西の風が瀬戸内の島々に特色を生み出し、素晴らしい「しまなみ」の風景を演出している。島の特徴としては、山を囲む地形や、東西南北ごとに違いはあるが、日照が安定しているため、雨が少なく、冬は温かい。年間を通じて過ごしやすい日が多く、その気候をうまく利用した果実栽培が、多く島の産業に取り入れられている。しかし、瀬戸内の気候は良いことばかりではない。周囲が海という瀬戸内海の島では、高潮、台風、潮風にさらされ、塩害など過去いろいろな自然災害もあった。1991年の台風19号、2004年の台風16号は、瀬戸内海の島々に多くの傷跡を残した。しまなみエリアの自然は温厚だが時に厳しいのも特徴だ

住まいづくりのワンポイント
しまなみエリア気候グラフ