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コラム

CASE__04 現代の郊外団地になじむ日本建築の佇まいを持つ家~地域の暮らしを楽しむ住まいのアイデア~

 

 

建物の玄関までに確保された広いアプローチと駐車スペース。新建材や金物を使わず、柱や土台は堅木材で固定、通し柱も2間おきに配置する構造。土壁と淡路いぶしの一文字瓦、目隠しを兼ねた美しい格子が、佇まいに和の風格を添えている

 

■DATA 【趣楽の家】

所在地:呉市
家族構成:5 人(夫婦+子ども3 人)
敷地面積:299.41㎡ 延床面積:133.02㎡
1 階面積:84.27㎡  2 階面積:48.75㎡
断熱性能:Q 値2.49W/㎡・K(※) 気密性能:0.76㎠ /㎡
設計:高橋工務店 施工:高橋工務店

※断熱性能は、UA値で計測する前の指標であったQ値で測定をしています。

 

瀬戸内海にも近い広島県呉市は、海と山の自然に恵まれた地域。その郊外に発展した町・焼山は標高200mにあり、冬の寒さが市内よりも厳しく感じられるようです。O様の家族が暮らす家も、周囲には緑があり、街並みもどこか穏やかさを見せる環境。京町家をイメージしたという外観は、どこか懐かしく、以前からそこに息づいていたような印象です。敷地は90坪の広い長方形に近い土地。北入りの玄関、南側の配棟という理想的な条件を備え、和と洋のいいところを、これからのライフスタイルになじませたいO様の要望も、実現することができました。ハウスメーカーの画一的な家が増え、昔ながらの伝統建築を知らない世代も生まれる中、改めて日本の文化や伝統建築を新鮮に思う、O様のような方も少なくありません。今回のこだわりも、平屋に見えるプロポーションや美しい格子を特色とする、京町家風の家づくり。この日本建築を生かした外観から、建物内の間取りを考えていったというO様。木と漆喰の自然素材を取り入れ、今の暮らし方にも合う断熱性能を設計した家は、日本人の知恵と美意識を住み良さへ生かすお手本と言えそうです。

 

 

 

 

 

 

強い日差しを遮る深い軒を設けた玄関。日陰をつくりだすことで夏は涼しく、まわりを囲むことで冬の暖かみも実感

 

 

 

 

 

 

 

目隠しとなる格子の奥には、自転車なども置ける空間を確保。上がり部分のスギ板が、石と砂の道を心地良く切り替える。夜になり照明が灯れば、玄関先と高い位置の窓がやわらかく光のぬくもりを見せ、昼間と異なる表情と印象美を楽しませてくれる

 

【高断熱高気密で家族の開放空間を実現】

 

 

 

 

1階は水回りとLDKのみ。中心には掘りごたつ式の座卓を置き、キッチン前に造作のカウンター。ケヤキの大黒柱が家族を見守る

 

和風建築の外観から、家の中へ迎えられると、和と洋のテイストを巧みに調和させた生活空間が広がります。開放感あふれるLDKを確保したとき、心配なのが断熱性や冷暖房効果。O様の住まいは家のすみずみまで温度が均一に保たれるスーパーウォール工法を採用しています。グラスウールの倍という断熱性を持つ硬質ウレタン、高性能断熱パネルを使う工法ですが、施工品質を上げ、さらにハイレベルな次世代省エネ基準をクリア。地域特有の日当たりや窓の高さ、エアコンの位置、吸気・排気の循環などを計算して、自然エネルギーを活用するパッシブデザインの家に、O様からも高い評価を得ています。実際に暮らしながら、温度・湿度や光熱費などの数字も記録し提供され、実証データとして使われているそう。こうした先進性能に加え、家族への視線まで配慮したキッチン、顔が見えるリビング階段、オープンな子ども部屋など、住む人の絆を深める設計も忘れません。

 

 

 

 

 

 

梁を見せる天井、開放的な階段、スギの床と造作建具が和モダンを演出(左)。家族が並んで使える洗面台はアイロンがけにも便利(中)。高い勾配天井の子ども部屋は、間仕切りすれば将来2部屋になる(右)

 

 

 

 

 

 

 

 

★レモンの技  階段上の壁に採光も兼ねた排熱窓を設置

 

断熱・気密性能を高めた住まいでは、温まった空気や熱を外へ逃がす開口部がポイント。温められたり、熱くなったりした空気は高いところに溜まるため、階段上へ排熱窓が設けられています。窓は最小限の隙間で空気を排出できる横すべり窓。開けているときに雨が降り出しても、家の中に入り込みにくいのが特長です。暗くなりがちな階段では、採光を兼ねた窓にもなります。堅くて強いタモ材の手すりなど、階段上の見映えと機能性にもこだわりを配したレモンの家です。

 

 

【和と洋のテイストを調和させた生活空間】

 

 

 

和と洋のテイストが程良く調和した空間は、参考にしたい見どころがいっぱい。例えば照明やニッチも個性的な和モダンの玄関、扉で仕切らずに空間の奥行きを活用したキッチンパントリーなど、広さを無駄なく使えるようデザインされている

 

和風好みのご主人、洋風志向の奥様、それぞれのご希望をかなえた和モダンのインテリア。それは見た目の演出だけでなく、生活に便利さを生むデザインです。例えば玄関を入ればすぐに廊下というつくりではありません。ウォルナット扉は家族用、格子の造作扉はゲスト用、2つの出入口に分かれ、玄関床は土間風のたたき床に飛び石を配して、和の遊び心も演出。ゲスト用の扉からはリビングヘ、家族用の扉はクロゼットと書斎につながるよう、間取りの動線も工夫されています。キッチンは奥様が希望された対面式。造作カウンターに市販のカゴを収納として置くなど、センスの良い生活感をさりげなく。奥の空間を利用したパントリーは、冷蔵庫も隠したい奥様のこだわり。キッチンの床は磁器質のタイル、洋の素材もすてきなアクセントです。

 

【冬の日射を利用した陽だまり空間】

 

 

和室、リビングダイニングの延長線のようにつくったウッドデッキ。大きくせり出した 軒のおかげで、夏の強い日差しを遮り、冬は日射を取り入れてくれる。小上がりの和室コーナーは、天井に丸太の皮をはいだ梁を見せる趣向。リビング扉の格子、障子風のアクリル窓も、情緒と落ち着きを醸し出す

 

シンプルな壁は吸湿効果に優れた漆喰。家に特有のにおいを吸収するメリットもあります。床には節目が美しいスギ材を使い、場所により塗料で色味が変えられています。キッチンに立つ奥様からは、広いLDKが見渡せ、庭に設けたウッドデッキも見える窓を設置。天井の現し梁は米松、掘りごたつに合わせた座卓はスギの天然板。家族がごろりと横になれるフロアスタイルの暮らしを、体に優しい自然素材が包み込んでいます。
LDKで目を引くのは、フチなし畳の和室コーナー。吹き抜けを生かして天井を高くして、開放感をだしました。古材を構造梁として使用し、日本家屋らしさを演出しています。また高断熱高気密なので、室温はいつもむらがなく、気持ち良く過ごせる家族が集まる場所となっています。和と洋が響き合うインテリアに、暖かい日差しが窓の形を描きながら入り込み、幸せな笑顔も想像させてくれる家です。